再考・私の護憲的9条改正案――個別的自衛権と集団的自衛権の区別は自衛権行使の歯止めとして不的確――

 言葉の本来の意味における「改憲」案――別の憲法に置き換えるのでない案――は、どんな案であっても、日本国憲法のエッセンスである4大原則(①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義、 ④国際協調主義)を継承し、よりよく条文に反映させることを目指すはずです。

 さて、現行憲法第9条を以下のように改めることを提案します。

 

第9条

自衛権、および国際平和への貢献]

第1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争 と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第2項:前項の規定は、他国や、その他の国外の勢力による武力攻撃に対する日本国の自衛権の行使と、そのための戦力の保持を妨げるものではない。なお、この戦力を構成する組織には、76条2項の規定[1]にかかわらず軍法会議を設ける。

第3項:日本国民は、国際連合憲章に則って行われる平和維持活動には戦力の提供を含むあらゆる手段をもって貢献する。なお、この戦力を構成する組織には、76条2項の規定[1]にかかわらず軍法会議を設ける。

 

<付記>

① この9条改正案は、国家の自衛権(=正当防衛権)が個人の自衛権(=正当防衛権)に準じる準自然権である以上、憲法を含むどんな実定法も日本国からそれを奪うことはできないという前提に立った上で、平和主義の原則に基づいて自衛権の行使に明確に抑制的な法的リミットを設け、かつ国際協調の原則に基づいて国連中心の集団安全保障に積極的に参加することを誓う、という趣旨の改正案です。
 ここには、潜在的に対立する民主主義と立憲主義の双方の要素が組み合わされています。その意味で本改正案は、安全保障の領域において、自制的な(=近代立憲主義的な)民主主義、すなわち自由主義的な民主主義の一つの在り方を示しています。
 
② この改正案は、自衛権の行使を、「他国や、その他の国外の勢力による武力攻撃」に対処する場合に制限します。いいかえれば、旧周辺事態法[3] の範囲内に制限するわけです。その一方で、それが個別的自衛権の行使であるか、集団的自衛権のそれであるかは問いません。理由は次のとおりです。
 
【理由1】 9条2項を維持しつつ、個別的自衛権の行使は認めるが集団的自衛権のそれは認めないというたぐいの主張をするのは、ご都合主義の解釈改憲という謗りを免れない。
 2項を改正するとしても、個別的自衛権の行使は認めるが集団的自衛権のそれは認めないというたぐいの主張は、集団的自衛権の容認を9条1項をなし崩しにしかねないものとして危険視する割に、個別的自衛権の孕む同様の危険性を看過している点で、致命的にピントが外れている。戦前・戦中のわが国の海外派兵は基本的に個別的自衛権の発動であった。
 【理由2】 安倍安保法制がもたらした結果において著しいのは、1999年以来の周辺事態法が2016年に重要影響事態法に置き換えられ、自衛隊の活動への地理的制約が取り払われてしまったことである。それに比べれば、現行憲法9条1項の反戦原則を堅持する上で、わが国固有の領域とその周辺で行使する自衛権が個別的か集団的かという区別には、近未来的に不測の事態も発生しかねない状況において全くリアリティがない。
 
③ 第3項を追加するかたちで、国際連合が主導する集団安全保障への積極的協力(武力貢献も含む)の方針を逐条で示すのは、現行憲法が前文に謳う国際協調主義を貫徹するためです。
 そもそも、本改正案の2項がわが国の自衛権行使を周辺事態の範囲内に制限するのは、現行憲法がその「前文」に、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と明言しているからにほかなりません。
 そうであれば当然、日本国民自身も「諸国民」の一員として、「平和を愛する諸国民の公正と信義」の実効化に努めなければなりません。もしわれわれがそれを怠って、いわゆる「一国平和主義」のエゴイズムに閉じ籠り、国連憲章に基づく国連の活動への協力を拒むならば、同じく前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」という文言が上辺だけの偽善的美辞麗句に終わってしまいます。
 
④ 最後に、わが国が保有する軍事組織――自衛隊は現在すでに世界有数の規模の軍事組織である――に軍法会議(特別軍事裁判所)を設置することを提言する理由を略述しておきます。
 国家が正式に――立憲的に――保有する重武装組織は正規軍であり、そうである以上、 軍紀を維持するとともに、武装組織に特有の犯罪に迅速・峻厳に対処すべく、特別刑法を適用する用意がなければなりません。さもなければ、文民には許されない武器の所持を認められる軍人が政治に関与することを禁止しても、その禁止を実効化することができませんし、また、周辺事態に対応して自衛権を行使する際に起こり得る誤射・誤爆等のトラブルを適切に裁くことも、国連の平和維持活動に参加中の兵員が起こす可能性のあるそうしたトラブルに関して、現地の主権国との間でフェアな地位協定を締結することもできません。

 

[1]「特別裁判所は、これを設置することができない。」(現行憲法76条2項)

[2] 国連憲章に基づく平和維持活動は「集団安全保障」であり、これは「集団的自衛権」とはまったく別のものです。

[3]周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(周辺事態法)は1999年に成立したが、2016年の安倍安保法制の施行に伴い、「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(重要影響事態法)に置き換えられてしまった。